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復活の味。鯖寿司。

近江の代表的な食文化、鮒寿司。茶漬けで食す。

鮒寿司と一言で言っても、実際は各家々によって製法や漬込む期間等は様々らしい。であるから、味わいも薫りも実に様々である。そうした好みの味に出逢う事も、実は鮒寿司たるものの醍醐味らしい。
さて、そんな中でも、江戸時代初期、1619年創業の「喜多品老舗」さんは、滋賀県・高島市の古い街並が残る一角にその姿を留めている。
琵琶湖で捕れた産卵前のニゴロブナを2年塩漬け、それから1年間近江米で漬込み、更に新たなご飯で数ヶ月置いてようやく完成する喜多品さんの鮒寿司。
出来上がるまでに3年と3ヶ月。今や貴重な木桶で大切に漬けられたこの伝統食も、価格の高騰や嗜好の変化などで2012年にいったんは廃業されたが、「滋賀の食文化を絶やしてはならない」と、同県の和菓子メーカー「叶匠壽庵」さんの会長(故人)による支援を受けて、再び大復活を遂げた。

もう20年以上前の若い頃。湖西のほとりで、絵描きさんや作家さんら関西の文化人、及び会社経営者の方々らに(多分若いという理由だけで)呼ばれて、大人豪華なバーベキュー会の合間に、喜多品さんの鮒寿司を頂いた事がある。立派な大皿に、まるでふぐ刺しのように薄くスライスした鮒寿司がざあっと丸く盛られたそれは、ひっくり返る程大変な美味で、これまで親が好きだったので何度か食べた事のある鮒寿司とはまるで格が違ったのを覚えている。舌が定まって無いような若い子でも、やはり本当に良いものを食べさせて頂くのはまことに良い事だ。何故ならそれがきっと、ひとつひとつ、指針になるから。好き嫌いが色々言われる伝統食ではあるけれど、どうか最初に良いのをひとつ頂けば、とやかく言われるようなものでは無い。
そしてあの時食べた忘れられない味がまた、今日もこうしてあるというのは本当に素晴らしいという感慨にも浸れる。

さて。喜多品さんで教えて頂いた鮒寿司のお奨めの食し方をば。
近江米「みずかがみ」の新米を買って来て、ほかほかご飯に鮒寿司を三切れ程、そこにとろろ昆布に塩こんぶをのせて、白湯を注ぐ。
サラサラサラ。。。ちょっとここの所どったばたの日々でお疲れさんだったのが、一気に吹っ飛んで大復活を遂げた。なんと美味しいんだろう!ハレの日のおもてなし料理としての鮒寿司は恐れ多いけれど、自然の滋養食と言われれば心おきない。
物語があって、美味しくて、体に良し。
これからもずうっと続いて欲しい味。またひとつである。

谷口菜穂子写真事務所
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