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3月11日によせて。

 

見えざる恐怖を撒き散らした原発の、

廃炉が完了するまでに言われる30年から40年。

9年前からの、その後なのか。

今から数えて、その後なのか。

いずれにせよ私たち40歳以上は、

途方もなく長いその後を見届けることは多分出来ない。

歴史を読む事も申し送りも不得意ながら、

以前恩恵を受けた大人達は、

様々な問題を次の世代へと残したまま去っていく。

自分の始末もちゃんと拭けない私たちは、

拭くお尻の数よりはるかに多いトイレットペーパーに

今や群がっている。

 

戦争があって、

復興と急加速の経済成長があって、

災害があって、人災があって、

そのたび、大切な人を亡くし、家を無くし、故郷を無くし、

未だ後遺症に苦しむ人と同じ時間軸で、

実は私たちは生きている。

見えない毒を海や空に蒔き散らしたのは彼の国だけじゃない。

生きる上で最低限必要なものすら無かった時代。

必要なものを量産するあまりに痛みを強いた時代。

中央から離れたところで起こる悲劇に目を背け、

その後の余剰にあやかった今。

善悪も喜怒哀楽も見た目で分からない、

マスク姿の街の光景。

 

見えないものは恐怖なんだ。

その一方で、目を逸らさずにいれば見えるものは、

その現実の痛ましさに遠ざかり、

目の前にあるものが無くなりそうだと不安に煽られば、

過分さえ搔き集めてしまう。

見たいものを選ぶ自由と余裕がまだ、私たちには全然ある。

 

平和に、ひたむきに、慎ましく暮らす人々に突然やってきた、

不条理の極みにも、直視するしかない現実の始まった日。

そんな日が、実は無数の人にあったことを、

目を閉じて心で感じてみよう。

谷口菜穂子写真事務所
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