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小さな村の、小さな廃校で思うこと。

 京都府で唯一の村。南山城村。

 人口約二千六百人の小さな村で、京都の東南端、奈良や三重の県境に位置し、「宇治茶」の産地として有名です。

 先週数日間、滋賀の信楽経由で三重の伊賀に入って仕事があったのですが、ナビの言うまま走りつつも道路標識に何度も南山城の文字を見かけて、そんなに近いのかな、だったら普通に他県経由でなく京都から宇治、城陽と走ればどんなだろうと気になって、ドライブがてら訪ねてみました。

 観光サイトで示された道の駅や隣接する外資系ホテルがあるとは言え、山と川に挟まれた静かな所。そんな中に、2003年に廃校になった小学校の木造校舎があるというので寄ってみることに。今は月に僅か4回だけパン屋と工房として利活用されているようですが、それもこのコロナで閉じられていて校舎の中には入れませんでしたが。

 人には、美しいとか可愛いとかいう基準はそれぞれだと思いますが、なんというか、小学校の、それも使われなくなった校舎の、あちこちの小さな残置物である造形はどうして、こんなにも美しかったりするんでしょう。それも昔の学校というのはちょっと高台にあったり、建物の採光もとてもよく考えられていたりして、かつて子供たちを大事に思い、守ろうとした社会全体というのがあったことを象徴していると感じます。また子供たちも、与えられた大事なものだから、最後の最後までボロボロになるまで大切にしていた感も見受けられて、ああほんの数年前までは、掃除も一生懸命してたんだろうなあとか、残された絵とか標語とか卒業記念の造形物とか、あれこれと物語があったろうになあと、ぎゅうっと、想像するのです。

 懐かしさとか愛おしさとか、母校であるかそうでないかなんて、たった個人個人のものなんかでは、実は無いんですよね。

 

 ちょうど校門の上がり口には、こぼれた種が子供たちが居なくなっても毎年律儀に咲くんだろうキバナコスモスが咲いていました。

 ちなみに、全国の小中高公立学校は毎年概ね約500校が廃校となっており、その内、小学校が全体の7割を占めるそうです。これも数年前のデータなので、現在は中学や高校の廃校割合はそのままスライドしているのではないでしょうか。

 その減少数を都道府県別に見てみると全国1位の廃校発生数は北海道。次いで東京都が2位。地元京都は全国で29位。お隣の滋賀県は全国でも最下位の減少数で1位との差は2桁も違うのだとか。(全国調査による平成14年~27年データ)

 現在、全国における廃校舎は公共施設や民間企業利用と幅広い再活用が模索されていますが、このまま少子化傾向に沿った社会をデフォルトとしてなぞるように形成するのか、あるいは子育てしやすい社会環境を整えるべくもっと先の指標を見据えて取り組むのか。

 

 子供たちの居なくなった校舎を見つめる時、私たちは今、悩ましい岐路に立たされているのだと思うのです。


谷口菜穂子写真事務所
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