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極楽浄土がこんなところだったら良いなあ。妙心寺。

 京都は右京区の花園。

 東西に約500メートル、南北に約600メートルと広大な境内を誇る臨済宗妙心寺派の大本山・妙心寺。

 石庭で名高い龍安寺など46の塔頭寺院を持ち、末寺は世界中に3400寺余り。在籍する僧侶の数は7000人を超えると言う、本山は言わば巨大な仏教コミューンである。

 そんな広大な境内にあってとても好ましい光景は、祈りの場、修行の場である一方で周辺住民の方の生活道路でもあり、学生の通学路でもある様子に触れることだ。京福電車の妙心寺駅とJRの嵯峨野線に挟まれ、その間を行き来する。

 石畳の隙間に映える頑固な雑草を丁寧に抜き取る修行僧の方らの側を、子供たちが駆け抜ける。若い学生たちが楽しげに去っていく。近所の人達が互いに出会って挨拶をする。広大な境内には電信柱も無ければ、派手派手しい看板も無い。ちりひとつ落ちていないし見捨てられたようなスポットも無い。空は広く開放的で、塔頭を縫って迷路のように道が整えられている。でも、程よく人の気配がする。信じる人も信じない人も守られている。

 それはまるで、どこか異国の仏教国に迷い込んだような、日常と言うものが自然に溶け込んでいて不思議な感覚に陥る。時間軸が複雑に交差して調和して、いつの時代だか分からなくなる。

 もしも極楽浄土がこんな風だったら、いつか自分が消えて無くなることを想像しても怖く無いかもしれない。それはあまりかけ離れ過ぎては居ないから。

 

 京都のそこかしこにある大きなお寺ではよくこうした光景を見かけるが、中でも妙心寺はその立地からしてこうしたバランスが絶妙だろう。
 思えば小さな頃から歴史の舞台であり文化財の宝庫でもある特別な場所が、ほんの身近にあって、触れられるような距離にあると言う事はとても有り難く、また本当に貴重である筈だ。

 これは普通だけれど普通では無い。そのことをふとした時にでも、思い返すべきである。


妙心寺塔頭・退蔵院

 一年を通じて季節の花木が四季の移ろいを感じさせる退蔵院。

 境内を歩き進むと聞こえてくる水のせせらぎはだんだんと近くなり、開けたところにあるのは850坪に及ぶ池泉回遊式庭園。作庭は中根金作によるもので昭和40年に完成と、近代のものであるが、その自然を越えた自然の様にいつまでも見入ってしまう。


妙心寺塔頭・桂春院

 「侘びの庭」とはまさしくで、決して大きいとは言えないが、細部まで目と心が届いている様に深く、安らかな気持ちに誘われる桂春院。隣接している放課後の学校のざわめきが遠く聞こえてくるが、なんと言うか、それもまた良い。訪れたときは誰も居なくて、つい、ああこれもこの流行り物のおかげといえばおかげなんだなあと。



谷口菜穂子写真事務所
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