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2024年の当たり梅

 

 梅農家さんから今年も梅が届いた。

 箱を開けて一晩置くと、朝のリビングが仄かに甘い魅惑の香りで満たされている。

 国内で梅の収穫量の64%を占める和歌山県。その中でもみなべ町は日本最大の梅の産地で、「南高梅」は誰もが知る最高品種のブランド梅だろう。

今年の梅は、長年の梅農家さんでも経験した事が無いほどの不作。ニュースで既にご存知の方もおられるだろうし、毎年ならスーパーの野菜売り場で一際目立つ梅コーナーの面積が、特に南高梅に至っては激減してるのに気がつかれてる人もいるだろう。

 3月20日の強い寒気がもたらした降雹で、これから大きくなるタイミングの梅の実に激しい傷をもたらした事、それだけで無く要因として分析されているのが、暖冬で開花が早まり不完全なまま枯れた花の数が多かったそうだ。そして大量発生したカメムシが蜜を吸い尽くした事も影響しているとも言われる。
 今後正確な今年度の収穫量結果が出るだろうが、過去最悪を大きく更新すると言われている。


 私の場合、毎年の梅を農家さんから直接送って頂いているので、農家さんのSNSで早い段階から日々のお知らせや取り組みを拝見していた。がその一方で、普段使っている某大手協同組合系宅配のチラシでは、何事も無いかの様に早くから恒例の梅頒布会が募られていて(と言ってもタイミングからして既に今年の凶作は分かっていた筈)、そこにはそんな不作予報インフォは全く掲載されていなかった。

 つい先日、このタイミングで偶然にも某梅酒メーカーさんへの取材があって、よもやま話として、今年度の厳しい状況と共に、農家さんの置かれているシビアな現状と、メーカーとしての生産者さんとの関係や真摯な取り組みもお聞かせ頂いた。それはとても貴重な時間だった。

自分のような生産者じゃない一消費者が、環境問題にコミットするという漠然と壮大な事以外に、目に見えて簡単で、今すぐにでも取り組める事ってなんだろうと考えされられる。

 まず、「あって当たり前マインド」みたいなものを止める事から始めてみたらいいんじゃ無いか。そして、「今年も勿論で潤沢にありますよ」というキラキラした販売側インフォを求めるのはやめた方が良いんじゃないか。そして、仮に不作で見栄えが悪くなったと言え出荷まで辿り着けた生産物に対して、ここは消費者の最大の出番として積極的に受け入れる。

 冷静に考えれば、一消費者の先の大きな仕入先であれば、いかなる状況にも関わらず(あらかじめ例年に則り確保された売り場を満たすべく)シビアな収穫量を生産者に求めているだろうことや、例年通りの見目麗しい姿の農産物の仕入れを生産者側に強く求めているだろう事は冷静に考えれば容易に想像出来る。つまり一消費者のマインドが束になったのが更に巨大な消費側である仕入れ企業なんだから。

 もう、さすがにこのような消費者への安定供給に向けての旧来型市場システムは、特に自然環境に直接影響を受ける商品に関してはあまりにも無理があるように思えて。

 

 普段、企業販促の末席に関わる者として、良いものを知らない人に届けたい、という純粋な思いを超えて、下手をすれば過大で無理のある宣伝に加担するかもしれない責任と、自分は果たしてこの世界でどうあるべきかもつくづく考えさせられる今日この頃です。

 これから梅干しにして、実際食すのは来年以降。その際にも教訓として忘れないよう、ラベルには厳しい状況の中も農家さんが前向きに名付けられた「当たり梅」(2024)と、書いておこうと思います。

 

 今回は初めて、能登のニガリが入った石川県産塩で漬けます。きっと強くなる。

谷口菜穂子写真事務所
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